<映画> ジュリア

 

ジュリアは、何と言うか、少し心が折れ始めたり、気力が萎え始めた時に、何度も観返してきた作品です。監督は名匠フレッド・ジンネマン。主演はジュリア役のヴァネッサ・レッドグレーブとリリアン役のジェーン・フォンダ。そこに「マルタの鷹」等で著名なアメリカのハードボイルド作家、ダシール・ハメット役のジェイソン・ロバーツがリリアンのパートナーとして登場し、何とも渋く、控えめで、しかし時に厳しく、優しい初老の男性を心憎いほどに演じています。1977年の作品なので初演時には観ていない。おそらく東京のどこかの名画座で観たのだと思います。 

ジュリア [AmazonDVDコレクション]

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  • 発売日: 2019/07/24
  • メディア: DVD
 

 決して明るい作品ではありません。ジェーン・フォンダ演じるリリアンは、後にアメリカを代表する女性劇作家になるリリアン・ヘルマンです。そしてジュリアは、そのリリアンの幼少期からの友人、と言うか、親愛すべき姉の様な存在です。映画は暗い湖面で釣りをするシルエットで始まります。とても陰影がある美しい映像です。映像は一転し、ジュリアとリリアンの幼少期を回顧します。とても仲が良く、しかしリリアンは何をやってもジュリアには敵わない。ジュリアは常にリリアンを支え、助け、二人が永遠の友情を育む過程を明るく、ビビットでまさに青春の息吹の様なスピーディな映像で描いていきます。

二人は成人し、ジュリアはオックスフォード大学に留学し、リリアンは作家を目指すものの創作に苦しみます。そして時は1934年、リリアンは劇作家として成功を収めつつありました。そこに謎の男が近づき、ある荷物をヨーロッパにいるジュリアに届けて欲しいというのです。ジュリアは、ヨーロッパでファシズムと戦う闘志になっていたのです。その荷物とは・・それは映画を観てのお楽しみです(そんなに意外なものではありません。)

有名劇作家となったリリアンは、モスクワ訪問という名目でヨーロッパに渡りますが、なかなかジュリアに会えません。そしてようやくある病院で包帯グルグル巻きになったジュリアと再会します。が、この時のジュリアは会話ができる状態にはありませんでした。そして次に病院を訪れた時、ジュリアはすでにそこにはいませんでした。反ナチの仲間が彼女をどこかにかくまったのか、親ナチが彼女をどこかに連れ去ったのか? 誰が味方で誰が敵なのか分からぬミステリーの様な緊張感を帯びながら物語は進んでいきます。そして、リリアンの回りに様々な人物が登場し、ジュリアの作戦と思われる指示の一端をリリアンに残します。彼らに委ねられるままに、リリアンは当初の旅程を変更し、ワルシャワ経由で、モスクワに入ることにします。

ワルシャワでの、リリアンとジュリアの再開は、この映画のクライマックスです。ワルシャワの駅でジュリアの同志に出迎えられたリリアンは、駅前のカフェに行くように言われます。そこには、昔のまま勇敢で誇らしい笑顔のジュリアがいました。しかし彼女は片脚を失い松葉杖を必要としていました。しかし、それでもジュリアは、勇敢で誇らしい笑顔を絶やしません。この時のヴァネッサ・レッドグレーブはとにかく凄い。ジュリアはここで自分には女の子がいる事、そしてその子はある田舎町のパン屋に預けてある、とリリアンに伝えます。短い再開が終わり、リリアンはモスクワに向かいます。そして、このワルシャワでの再会が、ジュリアと会う最後になってしまいます。しばらくして、リリアンはジュリアの訃報を受取り、悲しみに暮れながら、再びヨーロッパに渡り、必死にジュリアの子を捜し続けます。

僕の拙文のせいで、これだけ読んで何が感動的なのか上手く伝わらないかもしれません。
しかし、ヴァネッサ・レッドグレーブをはじめとする俳優陣の圧倒的に演技力。陽と陰、速と遅を変幻自在に駆使するジンネマン監督の手腕も素晴らしい。それ以上に、人間同士の愛情、信頼が、時にすべて(名声や生命)を賭して、思いや信念を貫くための行動に駆り立てる「執念と希望」とでも言いましょうかーこの映画全体が醸し出す(ちょっとダサいですが)ヒューマニズムが、時に僕を元気付けてくれるのだと思います。