<映画> 恋愛日記(フランソワ・トリュフォー

 

そのヌーヴェル・ヴァーグの旗手の一人、フランソワ・トリュフォーの作品の中で、忘れることができない作品に「恋愛日記」があります。原題は、L’homme qui aimiait les femmes.(女達を愛した男)くらいの意味でしょうか? トリュフォーの作品の中では、佳作というか、目立った作品ではないのですが、忘れがたい作品の一つです。

ストーリーは、ともかくどう仕様もないです。脚フェチの中年男が、女性を追っかけまわし、そんなにモテるタイプには思えないのですが、それなりの女性遍歴を重ねます。特に脚の美しい女性を執拗に追い求め、知り合うためにあらゆる知恵を絞り、策を講じて命がけで女性を口説きます。その行動力と執着は滑稽なのですが、ある意味尊敬に値します。トリュフォーは、この男の視線に忠実であるがごとく、美しい女性の脚を執拗に追いかけます。これはこれでセクシーで美しい映像に仕上がっています。

ある日彼は、以前からアプローチしていた下着屋の女主人に振られたことをきっかけに、自分がもう若くないと思い知らされ、軽薄な行動に思えるのですが、女性たちとの思い出を小説に書いて残そうと考ます。途中、古い記憶に浸ったり、あまりの内容に嫌気がさした女性タイピストが辞めてしまったり、それなりの苦労の末、何とか作品を仕上げパリの出版社に持っていきますが、内容に呆れられ採用されません。しかし、ただ1人、ある女性編集者だけは小説を認めてくれ、ようやく出版にこぎつけます。


クリスマス・イブの晩、彼は寂しさにおそわれ、かつて関係を持った女たちに手当たり次第に電話をかけます。が、どの番号も通じません。やりきれずに街へ繰り出します。向こう側の道を歩いている女性の脚に魅了され、その女性に声をかけようとして車道に飛び出し、車にひかれてしまいます。重態のまま病院に運ばれ、絶対安静の身となっていたのですが、悪いことに(彼にとっては良いことに?)巡回の看護婦がとても美しい脚の持ち主で、彼女の脚に触れようとしてベッドから這い上がった瞬間、生命維持装置が外れて絶命してしまいます。クリスマスに行われた彼の葬儀には、彼に愛され、そして彼を愛した女性ばかりが集まり、彼女たちとの思い出を描いた彼の人生は一冊の本となりました。めでたし、めでたし。


僕はこの作品を中学生のころ、地元の洋画中心の映画館で観たはずです。いわゆる二本立てというやつで、もう一つ何かが上映され、本来はそちらの方がメインの作品のはずでした。しかし、メインの作品が何だったかすっかり忘れてしまい、この「恋愛日記」だけが強烈な記憶となりました。その後、東京のどこかの名画座で観ました。そして今、久しぶりにDVDで観返しています。バカバカしいストーリーで、主人公は、情けない中年フェチ男です。この頃のヨーロッパ映画は、こういうバカバカしいけれど、理屈では割り切れない、心に染みるような作品が少なくなかった様に思います。ハリウッド製の大作―戦争をテーマにしたものやSFや、妙に説教臭い作品―とは異なるもの、人間は元々バカなんだよ、という小さなテーマを繊細に描くこういった作品をたまに観ると、逆に少しホッとします。 

恋愛日記 [DVD]

恋愛日記 [DVD]

  • 発売日: 2008/02/22
  • メディア: DVD