<文学・映画> グレート・ギャツビーF・スコット・フィッツジェラルド

 

やはり欧州の文学は重厚で、日本の近代文学も、森鴎外夏目漱石など初期の文学の巨人たちは欧州文化の薫陶を受けており、伝統的にはどこか欧州文学的です。日本文学においてアメリカ文学の影響や匂いが色濃く感じられるのは、先達はいるものの、やはり村上春樹氏の一連の作品群あたりからでしょうか。特に初期の「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」がそれで、当時のバブル的な時代背景もあって、若者の圧倒的な支持を集めました。村上春樹氏の多くの作品は決してドラマティックではありませが、一つ一つのエピソードが何とも言えない味わいがあって、ジュクジュクと心に染み入ります。
その村上氏が、高く評価、大きな影響を受けたとしているのが、この「グレート・ギャツビー」です。作者はF・スコット・フィッツジェラルド。1925年刊行。アメリカ文学の金字塔と言われています。 

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 

 舞台は、NY郊外のリゾート地―ロングアイランド。時代は、第一次世界大戦終結(1919年)から世界恐慌(1929年)に至るまでのささやかな高揚の時代です。そこは白人のエスタブリッシュメントの世界で、人種差別とかそういう問題は存在しません。主人公のニック・キャラウェイは、この物語の語り部です。中西部出身でエール大学卒業後、第一次世界大戦に従軍し、一度故郷に戻りますが、田舎での退屈な生活に耐えきれず、ニューヨークへ向かい証券会社に職を得ます。とあるきっかけで、彼はロングアイランドに住まいを得ますが、その隣で毎週末豪勢なパーティーを開いている伊達男、それがギャツビーです。しかしこのギャツビー、金持ちなのは分かるのですが得体が知れません。そして彼のパーティーに来ている人々も得体が知れません。彼らとギャツビーがどういう関係なのかニックにはよく分かりませんし、パーティーの参加者もギャツビーについて正確なことは知らないようです。むしろギャツビーについて悪意な噂話ばかりしています。


ギャツビーと次第に親しくなるにつれて、彼がデイジーという一人の女性に一途の思いを抱いていることを知ります。ギャツビーは戦争から帰り、その愛する女性を振り向かせるために、少々怪しげな仕事も含め、短期間で巨額の富を築きます。そしていつかデイジーが気づいてくれると期待を抱きながら、毎週末派手なパーティーを繰り返していたのです。


しかしデイジーはすでに富豪のトムと結婚しています。このトムが食わせ物で、マッチョで金持ちですが、自由奔放で浮気も繰り返します。デイジーはそれを知りながら、裕福で安穏な生活のために黙認します。そしてギャツビーの気持ちを知っている彼女は、弄ぶかの様に、ギャツビーとの情事に踏み出します。


ギャツビーはデイジーへの一途な思いを貫こうとします。結末。ある日、ギャツビーとデイジー、夫のトムは街へ繰り出します。そこでちょっとした言い争うがあり、イライラしたデイジーはギャツビーの車を運転し、自宅へと飛ばします。その途中で、トムの愛人が道路に飛び出し、デイジーは彼女を轢いてしまいます。ギャツビーはここでもデイジーを庇おうとします。そして自分の妻―トムの愛人―を轢き殺された男は、トムにそそのかされギャツビーが妻を轢き殺したと誤解し、射殺してしまいます。


あっけない最期を迎えたギャツビーですが、葬儀に参列したのはギャツビーの父親とニックだけでした。あれだけ大勢いたパーティーの参加者も、ギャツビーが亡くなる直接の原因を作り、ギャツビーが一途に愛し続けたデイジーでさえ葬儀には参加しませんでした。一人遠くから埋葬を見つめるフクロウ眼鏡の男を除いては。


ギャツビーという人物の造形は、かなり特別です。金持ちらしいが、得体が知れない、過去は謎めいている。そして彼はデイジーという一人の女性を無垢に一途に愛し続けている。寡黙だが、彼のすべての思考や行動はデイジーの愛を獲得することに向いている。しかも、僕にはどこか、ギャツビーが透明人間のように思えるのです。この感覚は、この作品全体に言えることです。デイジーもその他の登場人物も同じです。唯一語り部のニックだけにリアリティを感じます。この非現実感がこの作品の大きな魅力の一つだと思うのです。


ギャツビーには「卑しさ」がない、というのは変な言い方なのですが、苦悩はあっても陰がない。若くして射殺されるのは人生としては失敗だったかもしれないけど、その潔く高貴な生き方は、時代を経てもギャツビーそしてこの小説が愛読される理由ではないでしょうか?


映画化は二度されています。最初は1974年ロバート・レッドフォードのギャツビーとミア・ファローのデイジー、二回目は2013年デカプリオとデイジーにはキャリー・マリガンが抜擢されています。当然僕のようなオールドファンはレッドフォードの高貴な物腰と、ミア・ファローの小悪魔的なたたずまいが、やはりギャツビーとデイジーの原型です。

華麗なるギャツビー [DVD]

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  • 発売日: 2010/03/26
  • メディア: DVD