<映画・小説> 風と共に去りぬ

 

アメリカの大手動画ストリーミングサービスHBO Maxが「風と共に去りぬ」の配信を中止したとのニュースがありました。  

風と共に去りぬ [DVD]

風と共に去りぬ [DVD]

  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: DVD
 

 確かに映画・小説の舞台は南北戦争であり、南部の白人達の古き時代への郷愁も作品の一部を成しています。しかしこの作品が人種差別的という批判が、僕には良く分からないのです。この時代、アメリカは南北に分かれ、南部は奴隷制を基礎としたプランテーション運営が主な産業でした。奴隷たちは、畑仕事をし、家事を担い、その代わり、主人たちは彼らの生活や身分を保証していました。それは差別意識というより当時の南部社会における身分や役割の違いに過ぎないのではないでしょうか? 実際「風と共に去りぬ」の中には、マミーやポークといった重要な黒人奴隷が登場します。彼らはスカーレットをはじめオハラ家の人々から、ああしろこうしろと指示され、時には叱責も受けますが、自分の役割や義務を忠実にこなす僕の様です。そしてオハラ家の人々に敬愛と信頼をもって接し続けます。オハラ家の人々もマミーやポークを頼りにし、その存在を尊重しています。


作品発表当時から、「南部白人の視点のみから描かれており、奴隷制度を正当化し、(オハラ家の様な)白人農園主を美化している」といった批判があり、特に黒人奴隷の描写に関しては非常に強く批判されていた様です。白人至上主義団体クー・クラックス・クランKKK)を肯定していると思われる点も強い批判を受けた様です。
これら多くの批判そのものが的外れだと思うのですが、こんな批判を始めたら文学作品そのものが成立しません。作者のマーガレット・ミッチェルアトランタ生まれであり、本作品の舞台もアトランタを中心とするアメリカ南部です。当然それまでに見聞きしたことや経験が作品の根底になっています。KKKの存在と思想は、僕も違和感を抱いていますが、それは「風と共に去りぬ」という作品を批判する道具に使うのではなく、いまだにこういう組織が存続する事実を、今を生きるアメリカの皆さんがどう対処するか、現代の問題として扱うべきだと思います。


風と共に去りぬ」は、奴隷制を正当化したり美化する作品ではありません。南北戦争で崩壊していく南部を舞台に、強く、したたかに生き抜く一人の女性の波乱万丈の人生ドラマです。自信過剰で、自己中心的で、才覚があって、しかしその為にたまに失敗をする美しい一人の女性のドラマです。主人公スカーレット・オハラは、これ以上ない魅力的な女性で、作者マーガレット・ミッチェルが紡ぎ出した物語は文学史に残るものだと思っています。少なくとも僕にとって「風と共に去りぬ」は、最高のアメリカ小説であり最高のアメリカ映画です。

今回、ジョージ・フロイドさんが、白人警官の過剰な暴行を受け亡くなったのは非常に悲しむべきことです。アメリカ白人の有色人種に対する人種差別的態度は、徐々に改善しつつあると思っていました。しかしそうではないのでしょうか? これはごく一部の人が起こした例外的な事件であると信じたいです。それ以上に、この事件を契機に、アメリカ全土で起こったデモの嵐、それを場合によっては軍を動員して鎮圧すると叫ぶ大統領。自由の国アメリカはどこに行ってしまったのでしょうか?

残念ながら、僕も差別は完全には無くならないと思っています。しかし何とか無くす努力、極端に行き過ぎない努力を人類は積み重ねてきたはずです。アメリカでもオバマ氏が大統領になった時、アメリカのみならず世界中に大きな影響を与えると期待を抱かせました。事実オバマ氏は、就任早々プラハ核兵器に関わるアメリカの責任について演説し、その後ノーベル平和賞を受賞し、また、過去どのアメリカ大統領も尻込みした被爆地の訪問も実現しました。余りに融和的だったとの批判もありますが、次の大統領が次々とちゃぶ台返しを繰り返し、国内外で対立を煽る姿を見ると、いたたまれない気分になります。
そして今度は、配信大手のHBOの「風と共に去りぬ」配信中止です。小さなニュースかもしれませんが、この措置を多くのアメリカ人は支持するのでしょうか? もし支持するとしたら、本当にアメリカはどこへ行ってしまうのでしょうか?